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京都地方裁判所 昭和56年(行ウ)8号 判決

原告

中村日出男

参加原告

辻哲雄

参加原告

山田均

右三名訴訟代理人

川中宏

被告

社団法人京都府農業開発公社

代表者理事

八木義和

訴訟代理人

小林昭

菱田健次

主文

原告及び参加原告山田均の訴を却下する。

参加原告辻哲雄の請求を棄却する。

訴訟費用は、参加費用を含め原告及び参加原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一本案前の主張についての判断

1  原告及び参加原告らは町の住民で、参加原告山田均は瑞穂町三ノ宮財産区の、参加原告辻哲雄は瑞穂町梅田財産区の各住民でもあること、原告は、昭和五五年一二月二〇日、参加原告らは、昭和五六年三月四日、瑞穂町監査委員に対し、瑞穂町長が本件契約に基づく損失補償債務を履行することの制限又は禁止に関する措置を求める監査請求をしたこと、同委員は、右のような措置を講ずる必要がないという理由で、いずれの監査請求も却下したこと、それぞれの却下は、同年二月一六日原告に、同年三月一七日参加原告らにそれぞれ通知されたこと、以上のことは、当事者間に争いがない。

2 当裁判所は、財産区について、法二四二条の二の規定が準用されると解するものであるが、以下にその理由を詳述する。

(一) 特別地方公共団体である財産区についても、財産区の住民が、その個人的な権利や利益にかかわりなく、住民の資格で住民訴訟を提起し、財産区の執行機関らによる違法な財務会計の管理運営をただすことによつて、地方行財政の公正、ひいては住民全体の利益を確保する必要があることは、普通地方公共団体の場合と変わりはないというべきである。そうでないと、財産区に属する財産又は公の施設(以下財産等という)の管理及び処分又は廃止(以下管理等という)と普通地方公共団体に直接属している財産等の管理等との間に不均衡が生ずることになる。

(二) 財産区について、法二四二条の二の規定を準用する旨の規定はないが、反対に適用又は準用を禁止又は制限する規定はない。

(三) 住民訴訟が客観訴訟であることを理由に、明文の規定がある場合にだけ住民訴訟が許されるとしても、財産区に住民訴訟を準用することは、むしろ住民訴訟の制度の趣旨を生かすことになりこそすれ、いたずらに住民訴訟の出来る範囲を拡大するものではない。

(四) 財産区の財産等の管理等については、当該財産区が所在する市町村、特別区の長及び議会が、当該財産区の執行機関及び議決機関となり(法九六条一項六、七号、一四八条、一四九条六、七号等)、財産区には原則として固有の機関が置かれていない(法二九四条一項)。また財産区管理会には、条例又は協議に基づき、市町村長等による財産等の管理等に関する同意権、市町村長等から委任された事務の執行及び財産区の事務処理に関する監査権があり(法二九六条の二、三)、都道府県知事には、財産区の事務の執行権限をもつ市町村長等に対する報告徴収権、監査権及び財産区と所在市町村等との間の紛争裁定権がある(法二九六条の六)。

しかし、財産区管理会や都道府県知事に前述の諸権能があることは、財産区の財務会計の適正を図る手段として住民訴訟を否定する趣旨をも含むものとは解されない。そのうえ、財産区管理会は、常設の機関ではなく、また、その管理会自体が違法な財務会計上の行為をすることも考えられるのである。

3 当裁判所は、財産区の住民に限り、財産区についての住民訴訟を提起することができると解するものであるが、以下にその理由を詳述する。

(一) 財産区の財産等から生ずる収益は、主として財産区の住民に帰するものである。したがつて、財産区の財産等の管理等に利害関係をもつのは、主として財産区の住民である。法二九六条の五第二、三項、法施行令二一八条の二は、このことを前提としているものと解される。

(二) 法二四二条の二は、普通地方公共団体の住民に住民訴訟の原告適格を認めているから、これを財産区に準用する場合、原告適格のある者を財産区の住民に限るのが至当である。

(三) 原告は、財産区がその財産で支払うことのできない多額の債務を負つた場合、その財産で支払えない債務分は、その財産区の所在する市町村の負担となることから、その市町村の住民にも原告適格を認めるべきであると主張するが、このような例外的場合を考慮して、住民訴訟の原告適格を拡張すべきではないし、また、右の場合にも、財産区の住民による住民訴訟を通じて財産区の違法な債務の負担行為等の是正を回ることが可能である。

この視点に立つて本件をみると、参加原告辻哲雄は、財産区の住民であること、参加原告山田均は、瑞穂町三ノ宮財産区の住民であること、以上のことは、当事者間に争いがないし、原告が、財産区外の瑞穂町の住民であることは、原告が明らかに争わないから、自白したものとみなす。

そうすると参加原告辻哲雄(以下参加原告という)をのぞく原告及び参加原告山田均は、本件住民訴訟の原告適格がないことに帰着する。

4  被告は、財産区が被告から本件契約に基づき金四〇〇〇万円を超える損失補償請求を受ける可能性はほとんどなく、財産区が積極消極の損害を受けたことも、また、受けるおそれもないから、本件請求は、住民訴訟の要件である法律上の必要又は利益を欠き、不適法であると主張するから、この点について判断する。

(一)  住民訴訟の対象は、地方公共団体の執行機関らの行政上の違法行為全般にわたるものではなく、地方公共団体に財産上積極消極の損害を与え又は与えるおそれがある財務会計上の違法な行為又は違法に怠る事実に限られる。

(二)  ところで、参加原告の主張によると、財産区の管理者瑞穂町長は、梅田財産区議会の議決の範囲を超えて損失補償契約(本件契約)を締結し、かつ、これの有効性を主張しているというのである。そうすると、右行為は、財産区の財務会計上の行為であり、かつ、財産区が債務を負担することを内容とするものであるから、財産区に財産上損害を与えるおそれがある行為に属することが明らかである。したがつて、その限りでは住民訴訟の対象となるものというべきである。

(三) もつとも、本件請求は、法二四二条の二第一項四号所定の地方公共団体に代位して行なう当該行為に係る相手方に対する法律関係不存在確認の請求であるから、相手方との間に、その点を確認する利益があることが必要であることは、いうまでもない。

そこで、本件請求について、右の意味での確認の利益があるかどうかを検討する。

本件山林の売買契約及び本件契約の内容自体は、当事者間に争いがない。そして、〈証拠〉によると、被告と町は、本件山林の売買契約後山林の農用地としての開発計画について種々協議したが、その後の農業情勢の変化等により、ついに農用地としての開発計画を断念せざるを得なかつたこと、被告の支出した本件山林の売買代金及び借入金利子等の累計額は、昭和五五年の試算で金二億円以上になるのに対し、本件山林の樹木を売却しても、たかだか金四〇〇〇万円ないし五〇〇〇万円が限度であることから、本件契約に従えば、財産区は多額の損失補償債務を負担せざるを得ない計算となること、被告は、本件山林を処理場の用地として転売して損失補償の問題を回避しようとしたが、これについては、財産区の住民が反対したこと、被告は、本件山林の売買を合意解約した場合にも本件契約の適用があり、しかも、損失補償の限度はないとの立場をとつていること、その上で、財産区に対し本件山林の処分について具体策の提示を迫つていること、以上のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

以上認定の事実によると、本件契約に基づく損失補償について、参加原告の主張するような損失補償額の限度の有無を財産区と被告との間で確認する利益があることは明らかである。

(四)  したがつて、本件請求が、住民訴訟として不適法であるとの被告の主張は、採用できない。

二参加原告の請求に対する本案の判断〈以下、省略〉

(古嵜慶長 小田耕治 西田眞基)

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